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テレワークが脱炭素社会の実現に果たす役割とは?

※本記事は2023年4月に執筆し、株式会社イマクリエの会社ホームページに掲載していた記事をnoteに移管しています。


新型コロナウイルスの流行によりテレワークが急速に普及した結果、多くの人が、オフィスではなく自宅から仕事をするようになりました。この急速な働き方の変化により、テレワークが環境に与える影響についても注目が集まるようになりました。

今回の記事では、テレワークが環境問題、特に脱炭素社会の実現に果たす役割について、専門機関の見解などを元にご紹介します。 

テレワークと脱炭素との関係

エネルギーに関する調査や統計作製を行い、各種の報告書や書籍を発行している国際エネルギー機関(IEA)が、2020年6月に発表した報告では、在宅勤務がCO₂ 排出量の削減に対して一定の効果があることが示されています。

国際エネルギー機関(IEA)のレポートの要約
車通勤の人のうち、移動距離が6km以上の人が在宅勤務を行うと、オフィス勤務時に比べてCO₂ 削減に効果がある。
一方で、車通勤の距離が6km未満の人や公共交通機関を使って通勤する人が、在宅勤務をした場合、住む地域の気候等により差異はあるものの、家庭でのエネルギー消費が増えるため、少量だがオフィス勤務時よりもCO₂ 排出量が増えることになる

もし世界中のすべての労働者が、週に1日在宅勤務を行うことができれば、年間のCO₂ 消費量は2,400万トン削減できる(これは、人口900万人が暮らすイギリスの大都市ロンドンと近郊のエリア(グレーター・ロンドン)の年間のCO₂ 排出量と同量)

国際エネルギー機関(IEA)のレポート

また、イギリス政府により設立され、現在は独立系の環境コンサル組織となっているカーボン・トラスト社が、在宅勤務がCO₂ 排出に与える影響についての調査をまとめたリポートでも、在宅勤務がCO₂ 排出量の削減に対して効果があることが示されていますが、このレポートでは、季節や気候条件によって在宅勤務時の自宅でのCO₂ 排出量に差異が出るため、一定の条件下においては、在宅勤務が必ずしもCO₂ 排出削減にはならないことも明らかになっています。

この調査は、「コロナ禍以前」「コロナ禍」「アフターコロナ」のそれぞれの期間に、ヨーロッパの6ヵ国(イギリス、ドイツ、スペイン、スウェーデン、イタリア、チェコ)において行われた在宅勤務のCO₂ 排出量を分析した結果を元に、将来のテレワークによるCO₂ 排出量の削減を予測する目的で行われました。

カーボン・トラスト社のレポートの要約
・調査対象の全ての国において、在宅勤務はCO₂ 排出量の削減に効果がある

・テレワークによるCO₂ 排出量の削減を考えるとき、オフィスビルからのCO₂ 排出量を減らせるかどうかが、最も影響の大きい要素である。
例えば、イタリアとスウェーデンのテレワークによるCO₂ 排出削減予測量を比較すると、イタリアの削減量はスウェーデンの35倍になる
これは、イタリアにはエネルギー効率の悪いオフィスビルが多いことに加えて、国がエネルギーをCO₂ 排出量の高いガスなどに依存しているのに対し、スウェーデンのオフィスビルはエネルギー効率が良く、CO₂ 排出量の少ないクリーンエネルギーが使われていることによる差異である
 
・ドイツは対象6ヵ国の中で、将来、在宅勤務によって最もCO₂ 排出を削減できる可能性がある国である
(具体的には、年間でロンドンからベルリンへの片道フライト8,000万回分が排出するCO₂ 量に相当する1,200万トンを削減できる)
 
・個人ベースで見ると、イタリア人の労働者が最もCO₂ 排出を削減できる可能性がある
(具体的には、テレワーカー一人当たりロンドンからベルリンへの片道フライト7回分相当のCO₂ 量を削減できる)
  
・季節によって、在宅勤務のCO₂ 排出量に大きな差異が出る
例えば、ドイツでは冬季に暖房を多く使い、そのエネルギー源は石油と天然ガスであることから、冬季に電車通勤する労働者は、在宅勤務ではなくオフィス勤務にした方がCO₂ 排出量を抑えることができる
一方スペインでは、夏季に多くの家庭で冷房を利用するため、電車通勤する労働者は、在宅勤務ではなくオフィス勤務にした方がCO₂ 排出量を抑えることができる

アメリカ企業におけるCO₂ 排出量の変化

在宅勤務によって、2020年にはアメリカ企業の多くは、社員が在宅勤務をした結果CO₂ 排出量が削減されたと報告しています。

・Salesforce: 従業員一人当たり29%削減
・フィデリティ証券: 従業員一人当たり87%削減
・Meta: 従業員一人当たりのCO₂ 排出量が前年の2トンから1トンに半減

ハイブリッド勤務でのCO₂ 削減は課題が多い

カーボン・トラスト社のレポートでは、特にハイブリッド勤務におけるCO₂ 排出量については、今後も注意深く見ていく必要があると示されています。

ハイブリッド勤務では、例えば寒い冬の日に、在宅勤務とオフィス勤務の従業員がいる場合、ある従業員の自宅で暖房が使われているのと同じ瞬間に、従業員が半分しかいないオフィスでも暖房が使われているというようなことが起こり、CO₂ 排出量は増加します。

ハイブリッド勤務を導入しながら、同時にCO₂ 排出量の削減を目指すのであれば、在宅勤務者がいることを考慮して、オフィスのサイズを小さくするなどの措置を取る必要があるでしょう。

脱炭素社会の実現に向けて、環境問題に積極的に取り組んでいるITや金融業界には、エネルギー効率の良い社屋を建設し、オフィスにソーラーパネルを設置したり、再生可能エネルギーを使った事業運営を行うなどの取組みを進めている企業もあります。

このような先進企業が、ハイブリッド勤務をしながらCO₂ 削減の目標値を達成するためには、今後、従業員が在宅勤務を行う自宅においても、オフィスと同じレベルの環境に優しい状態を作れるのか。従業員のCO₂ 削減に対する意識を高め、一人ひとりの行動パターンを変えることができるのかを考えると同時に、ハイブリッド勤務に関する会社のルールについて、いつ誰がどのタイミングで在宅勤務をするのかまで細かく設計する必要がありそうです。

まとめ

在宅勤務はCO₂ 排出量の削減に対して一定の効果があるものの、季節、気候、働き方のパターン、オフィスや住環境のエネルギー効率といった様々な要因で、その効果に差異が出ることが分かりました。

テレワークの先進企業として、イマクリエでは今後も脱炭素社会の実現に寄与するテレワークのあり方について、情報収集や発信を行っていきたいと思います。

https://www.imacrea.co.jp/corporate/tw_diagnosis/

出典

https://www.iea.org/commentaries/working-from-home-can-save-energy-and-reduce-emissions-but-how-much

https://www.vodafone-institut.de/wp-content/uploads/2021/06/CT_Homeworking-report-June-2021.pdf