海外テレワーク事情 ~世界の在宅勤務の実態を知り、アフターコロナの働き方検討に活かす~
※本記事は2022年8月に執筆し、株式会社イマクリエの会社ホームページに掲載していた記事をnoteに移管しています。
この記事で分かること
テレワークは、日本ではすでにニューノーマルになりつつありますが、世界ではどうでしょうか?
この記事では、在宅勤務についての研究を行っているWFH Researchが2022年3月に発表した調査結果「世界の在宅勤務」をご紹介しながら、日本と世界の在宅勤務の違いを見ていきます。
世界の在宅勤務の実態は?
調査によると、週当たりの在宅勤務日数の世界平均は1.46日。日本は、世界平均よりやや少ない1.12日でした。(グラフ①を参照)
▶最も在宅勤務の日数が多い国トップ3
・ シンガポール(2.40日)
・ カナダ(2.18日)
・ マレーシア(2.10日)
▶最も在宅勤務の日数が少ない国ワースト3
・ 韓国(0.49日)
・ エジプト(0.72日)
・ セルビア(0.75日)
調査期間中に、コロナウイルス感染拡大防止のため、ロックダウンの実施や政府による在宅勤務の推奨、企業に対するオフィスへの出社人数の制限などが実施されていた国があるため、必ずしも企業が主導して在宅勤務を推し進めた結果ではありませんが、この調査結果からは、労働者にとって在宅勤務がニューノーマルな働き方になりつつある国はどこかを推察することができます。
労働者の希望と経営側の思惑
ここからは、テレワークでよく話題になる「在宅勤務に対する労働者と会社の考えのズレ」が実際に世界で起こっているのかを数値で見ていきます。
「在宅勤務を週に何日したいか」という質問に対しての世界平均は 1.73日。これに対し、経営者が予定している在宅勤務日数の世界平均は0.67日。(グラフ②を参照)
労働者の希望する在宅勤務日数に対し、どの国も経営者の予定する在宅勤務の日数は半分以下にとどまっており、労働者と経営者の在宅勤務に対する考えの差が浮きぼりになっています。
▶労働者の希望と経営者の考えの差が最も大きい国
セルビア (対比14%)
労働者の希望する在宅勤務日数(1.66日)
経営者の予定する在宅勤務日数(0.24日)
▶経営者の予定する在宅勤務の日数が最も多い国
シンガポール(1.08日)
在宅勤務の効率を職場での仕事と比較すると…
コロナ禍の在宅勤務は、コロナ以前に職場に出社して働いていたときと比較して、どの程度効率が良かった(あるいは非効率だった)か、労働者の感じ方を見てみましょう。(グラフ③を参照)
世界平均を見ると、労働者はコロナ禍の在宅勤務の効率性について、コロナ以前の職場での仕事より4.36%良かったと考えていることが分かります。
国別に見ていくと、アメリカ(6.97%)、ブラジル(6.84%)、イギリス(6.52%)、スウェーデン(6.45%)、オランダ(6.11%)で、労働者は在宅勤務の効率性を高く評価しているのに対し、中国(0.29%)、マレーシア(1.69%)、ロシア(1.74%)、日本(2.78%)では、労働者は在宅勤務の効率の良さをあまり感じられていないことが見えてきます。
効率性が高いと感じている国と低いと感じている国には、何か違いがあるのでしょうか?
ここからは筆者の推測になりますが、各国のコミュニケーションスタイルの違いが、多少なりともこの差に影響を与えているのではないでしょうか?
みなさんは、「ハイコンテクスト(高文脈)文化」、「ローコンテクスト(低文脈)文化」という言葉を耳にしたことがありますか?アメリカの文化人類学者エドワード・T・ホールが、1976年に発表した著書『文化を超えて』の中で、世界の様々な国や地域の言語コミュニケーションのスタイルを「ハイコンテクスト文化」と「ローコンテクスト文化」に分類したことに始まる概念です。
ハイコンテクスト文化のコミュニケーションでは、言葉に表現された内容そのものだけでなく、話し手の声のトーン、表情、ボディランゲージ、時には話し手の立場や、会話の背景、共通認識や常識までも含めて相手の考えを理解します。空気を読む、察する文化と言い換えることができますが、まさに私たち日本人のコミュニケーションスタイルが、ハイコンテクスト文化のコミュニケーションの代表例になります。
一方、ローコンテクスト文化のコミュニケーションでは、言葉に表現された内容のみが情報としての意味を持ち、言葉にしていないことは相手に伝わらないとされます。言葉にして伝え合う文化と言い換えることができ、英語がローコンテクスト文化の代表になります。
テレワークでは、対面でのコミュニケーションが減り、メールやチャットを使ったテキストコミュニケーションが増えました。私たち日本人が、これまで通り、はっきり伝えずほのめかしたり、空気を読むことを前提としたハイコンテクスト文化のコミュニケーションスタイルのままテレワークに移行しているとすると、相手の意図を正しく理解することが困難になることは容易に想像できます。
テレワークでよく話題に上がる「コミュニケーション」問題には、日本人のコミュニケーションスタイルであるハイコンテクスト文化が影響している可能性があるかもしれません。
あくまで仮説ですが、上の【グラフ③】の国々をハイコンテクスト文化、ローコンテクスト文化で分けてみましょう。(グラフ④を参照)
ブラジルやイタリアなど多少の例外はあるものの、ハイコンテクスト文化の国々の結果は世界平均を下回っており、在宅勤務は効率性が低いと感じている労働者が多いのに対し、ローコンテクスト文化の国々は、いずれも世界平均を上回り、労働者が在宅勤務で高い効率性を感じていることが分かります。
テレワーク時のコミュニケーションに悩まれている企業は多いと思いますので、私たち日本人の元来のコミュニケーションスタイルに立ち返り、テレワークでのコミュニケーションのあり方を再考してみる必要があるかもしれません。
労働者にとっての在宅勤務の価値
それでは、ここからはテレワークを今後も続けるべきかどうかを悩まれている企業にとって、検討のヒントになるであろうデータを見ていきます。
アフターコロナとなる2022年以降、週に2~3日の在宅勤務が可能な仕事を労働者はどのように見ているのでしょうか。週2~3日の在宅勤務を、現在の自分の給与の何%昇給(あるいは降給)と同程度の価値とみなしているか。早速見てみましょう。(グラフ⑤を参照)
世界平均では、週2~3日の在宅勤務は約5%の昇給と同価値があるという結果になっており、労働者が在宅勤務を非常に高い価値があるものと捉えられていることが分かります。
特に、セルビアやエジプトなど実際の在宅勤務日数が少ない国では、その価値が非常に高くなっています。
日本の労働者は、週2~3日の在宅勤務を3.79%の昇給と同価値と考えています。経団連が発表した2021年の大手企業の総平均昇給率1.84%と比較すると、その結果は2倍以上です。日本の労働者にとっても週2~3日の在宅勤務は、非常に高い価値があるということを示しています。
この傾向は、日本よりも給与水準が高いアメリカでも同様です。
アメリカの平均昇給率は2%代後半~3%ですが、アメリカの労働者も週2~3日の在宅勤務の価値を実際の昇給率の2倍程度(5.96%)と考えています。
在宅勤務がないなら、会社を辞める?
最後に見ていただくのは、勤務先の会社が「週5日の出社を求める」という通達を出したらどうするかについての労働者の回答データです。
スコア0を「会社の求めに応じて出社する」、スコア100を「週1~2日の在宅勤務をするために仕事を探す/仕事を辞める」とした場合に、世界の労働者の回答はどのようなものだったでしょうか?(グラフ⑥を参照)
世界平均では約15%の労働者が、もし自分の会社が週5日の出社を求めるという通達を出したら、他の仕事を探すか、あるいは仕事を辞めると回答しています。
カナダ、ハンガリー、イギリス、オーストラリアでその傾向が高く、20%以上に及びます。日本は世界平均よりは低いものの、約10%の労働者が他の仕事を探すかあるいは仕事を辞めるという結果になっています。
在宅勤務に高い価値をおく労働者が多いことは先に見たとおりですが、今後は、従業員の離職防止はもちろんのこと、採用においても在宅勤務の有無が、企業の魅力に影響を与えることは一目瞭然です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
労働力人口が減少し続ける日本において、優秀な人材の確保は企業の事業成長に欠かすことができません。今回の記事を、アフターコロナの働き方について検討する材料の一つとしていただければと思います。