テスラの「テレワーク禁止令」から探る、アメリカの在宅勤務のいま
※本記事は2022年8月に執筆し、株式会社イマクリエの会社ホームページに掲載していた記事をnoteに移管しています。
テスラのテレワーク禁止令
コロナウイルスの感染拡大を機にテレワークを実施した企業では、今後、在宅勤務を続けるべきかどうか悩みはじめている時期ではないでしょうか。
そんな中、テスラの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏が、社員に向けて「最低週40時間オフィスで働かなければ、クビ」という内容のメールを送り、事実上のテレワーク禁止令を出したというニュースを目にされた方も多いと思います。
この記事では、テレワーク先進国であるアメリカの在宅勤務にまつわる最新トレンドをご紹介します。
アメリカ企業は在宅勤務をやめる傾向にある?
アメリカでは、Twitter、Airbnb、PwCのように、社員に対し半永久的に在宅勤務を認めている企業がある一方で、Netflix、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカなどは、社員に出社を求めると発表しています。
2022年3月にマイクロソフトが発表した調査結果によると、調査に回答した企業経営者の50%が、社員に対し週5日フルタイムの出社を求めている、あるいは来年中に求める予定だと回答しており、在宅勤務が進んでいると言われるアメリカにおいて、出社回帰の傾向が出始めていることが見て取れます。
都市の規模別に見てみると、小規模 ~ 中規模の都市では、多くの社員がすでに在宅勤務ではなく、オフィスに出社をして働いている姿が見られます。
一方、ニューヨークのような大都市では、公共の交通機関の安全面に対する不安やコロナウイルス感染の懸念を理由に在宅勤務を希望する人が多いため、テスラのように週5日フルタイムの出社をすぐに求める企業はまだ少なく、出社と在宅勤務を組み合わせたハイブリッド型の働き方で、社員が求める「働き方のフレキシビリティ」に寄り添おうとしている企業が多いのが実態です。
アメリカで働く人たちの反応は?
コロナ禍の2年間で、多くの労働者がテレワークでも成果を出せるということを体感しました。そんな中「なぜ出社する必要があるのか」と、出社に意味を見出せない人も多くいます。
例えばAppleは、社員に対し週3日の出社(ハイブリッドワーク)を求める発表をしましたが、それに対し1,000人以上の現役社員や元社員が一団となり、経営陣に対する公開書簡で意義を唱えました。
この出社命令を受け、機械学習研究チームのディレクターだったイアン・グッドフェロー氏がAppleを退職したというニュースは、大きな話題となりました。その後Appleは、コロナウイルス感染の再拡大を理由に、オフィス出社命令を延期しました。
2022年6月のアメリカの失業率は3.5%と低く、昨年頃から労働力不足は深刻な状況が続いています。雇用市場は「超売り手」となっており、この労働者に有利な雇用市場を背景に、社員は会社が求める出社要請に対して「No!」を言いやすい環境になっていることも見逃せません。
なぜ出社を嫌うのか?
アメリカの都市部では、朝夕の通勤ラッシュの時間帯は渋滞がひどく、通勤に割く時間が長くなります。在宅勤務では、通勤が不要になった分、その時間を家族と過ごしたり、健康のための運動や趣味の時間などに充てることができました。
車通勤をしている人たちは、ガソリン代が高騰している中、在宅勤務は通勤費を削減することにもなると考えています。(アメリカには日本のような通勤手当がありません。公共の交通機関を利用した通勤であれ、自家用車通勤であれ、通勤にかかる交通費は自己負担が一般的です。)
当面は、出社と在宅勤務のハイブリッド型が主流となる見込み
ここまで見てきたように、アメリカの大都市では今後もしばらくの間は、社員に出社を求める会社と、フレキシブルな働き方を望む社員たちとの間での「バトル」が続いていきそうです。
社員をオフィスに呼び戻したいと考える会社は、無料のランチや軽食の提供、職場でのスポーツ観戦イベントの実施、通勤中に聞くためのポッドキャストの会員費用の支給など、さまざまなインセンティブを与えて、社員がオフィスに出社する動機付けをしようと必死になっていますが、大きな効果をあげてはいないようです。
企業がハイブリッド型勤務を続けていく場合、社員がせっかく出社しても、自分の上司やチームメンバーが必ず日もその日に出社しているとは限らず、会いたい人に会えなかったと失望し、益々出社の意味を見出せなくなるという悪循環に陥る可能性があります。
出社日の決定を個人に委ねずに、チーム単位で対面のミーティングを設けるなどハイブリッド勤務の運用方法を考えていく必要があるのかもしれません。