ハイブリッドワークの職場で起こる『プロキシミティ・バイアス(近接性バイアス)』とは?
プロキシミティ・バイアス(近接性バイアス)とは?
プロキシミティ・バイアス(近接性バイアス)という言葉を聞いたことがありますか?
プロキシミティ・バイアスとは、物理的に距離が近いところにいて、直接対面で接する時間が長い人に対して、より好意的な感情を持ち、高く評価したり優遇する一方で、離れている人については、実際よりも低く評価する現象のことを言います。
1970年代に心理学者によって定義された無意識のバイアスの一つですが、コロナ禍にテレワークが始まったことでまた注目されるようになり、特に、オフィス勤務と在宅勤務が混在するハイブリッドワークの職場では、オフィス勤務者を無意識に優遇したり、高く評価してしまうリスクがあると言われています。
ハイブリッドワークの職場で、本当にプロキシミティ・バイアスが起こっているのかを確認するため、2021年に米国人材マネジメント協会(SHRM)が、800人以上の管理監督者に対して行った調査の結果を見てみましょう。
この結果を見ただけでも、ハイブリッドワークの職場ではプロキシミティ・バイアスにより、「オフィス勤務者に比べて、在宅勤務者の昇格機会が少ない」といわれることにも納得がいきます。
男性が在宅勤務を止めて出社に戻る時、在宅勤務を続ける女性に起こること
アメリカ合衆国労働省労働統計局が発表している「American Time Use Survey(アメリカ人の時間の使い方調査)」の統計データを見てみると、直近年度(2022年)は前年度(2021年)に比べて、在宅勤務の男性が減っているのが分かります。一方、女性の在宅勤務率は2021年から変わっておらず、男女の差は13ポイントもあります。
男性: 2021年の在宅勤務率 35.3% → 2022年の在宅勤務率 28.0% (7.3ポイント減)
女性: 2021年の在宅勤務率 41.5% → 2022年の在宅勤務率 41.0% (0.5ポイント減)
また、同じ統計データ(2022年版)からは、家庭での家事や育児は相変わらず女性の方が多く担っており、家事、育児共に女性が男性の約2倍行っていることが分かります。
男性:家事をする人の割合 22.2% / 育児をする人の割合 13.6%
女性:家事をする人の割合 47.1% / 育児をする人の割合 21.9%
男女平等が謳われて久しいですが、このデータからは、今でも家事や育児を担う主役は女性であることが明らかです。働く女性は、家事や育児と仕事の両立を目指すため、可能な限り在宅勤務を活用しようとする傾向があり、この傾向は男性よりも高くなります。
アフターコロナで在宅勤務からオフィス勤務へ移行する男性が増えているのに対し、在宅勤務を継続している女性が多い状況で、ハイブリッドワークの職場でプロキシミティ・バイアスが起こるとどのような弊害があるでしょうか?
オフィス勤務をしている男性が在宅勤務の女性より高く評価されたり、優遇されて昇進の機会を得やすくなる。この不公平を見逃してしまっては、女性管理職の比率をあげるために、各企業が取り組んでいる施策の意味がなくなってしまいます。
またこれは同時に、組織が仕事の成果ではなく、昼夜問わず働く姿勢を評価する文化(ハッスル・カルチャー)に傾く可能性があることを示唆していることも見逃せません。
女性活躍推進や働き方改革を推進してきた企業は、改めてハイブリッドワークの職場において、プロキシミティ・バイアスによる不公平が起こらないよう、注意していく必要があります。
プロキシミティ・バイアスを避けるために、管理職がすべきこと
ではここからは、ハイブリッドワークの職場でプロキシミティ・バイアスが起こるのを防ぐために、管理職が取り組むべきポイントを見ていきます。
1. ハイブリッドワークの職場では、プロキシミティ・バイアスのリスクがあることを認識する
まずは、管理職全員がプロキシミティ・バイアスのリスクについて理解することから始めましょう。
プロキシミティ・バイアスにより、職場の公平性が失われると、メンバーのモチベーション低下や優秀な人材の流出につながるリスクがあります。
また、プロキシミティ・バイアスによりメンバーの選り好みをしたり、偏った業務割り振りをすることは、マネジャーとしての最も重要な仕事の一つである「人材を最大限に活用して成果をあげる」ことに反していることを忘れてはいけません。
プロキシミティ・バイアスとそのリスクや発生防止策についての研修やワークショップを行うのもいいでしょう。
2. 会議には全員を参加させる
あなたのチームでは、在宅勤務者を呼ばずにオフィス勤務のメンバーだけで話をしてしまうことはありませんか?
プロキシミティ・バイアスを避けるために、会議には必ず全員を呼ぶようにしてください。
もし1人でも在宅勤務の人がいるのであれば、オフィス勤務のメンバーも会議室からZoomを繋ぐことが大切です。在宅勤務者を置き去りにしないための仕組みが必要です。
3. 週次あるいは隔週ペースでメンバーとのMTG機会を持つ
管理職の多くは、四半期〜年次の業績評価の面談を使って、部下の仕事の状況や中長期的なキャリア目標などについて話すことが多いと思います。ハイブリッドワークの職場において、これだけでは在宅勤務者が取り残されてしまう可能性が高いので、より頻繁にカジュアルな短時間のMTGを設定するようにしてください。
ミーティングの目的は、チーム メンバーそれぞれの仕事を確実に把握し、チーム メンバーの仕事を見ていることを知らせることです。そして最も重要なことは、短期と長期の両方で目標を設定すること。これは、正式な年次業績評価においてメンバーを公平に評価するのに役立ちます。また、各人が常に自分の立ち位置をより明確に示すことができるようになるというメリットもあります。
4. 評価は成果ベースで行うことを徹底する
従来のオフィス勤務環境では、社員は朝誰よりも早く出社し、一日の終わりに一番最後に退社することで「頑張っている」という印象を与えることができます。しかし、パフォーマンスの指標として労働時間を重視すると、在宅勤務時に物理的に上司の目に見えない時間を補うために、社員は「常時稼働」する必要があるというプレッシャーを感じる可能性があります。
オフィスやオンラインで費やす労働時間の長さではなく、社員が生み出す仕事の質と量に重点を置くように、評価に関する考え方を変える必要があります。
まとめ
今回は、ハイブリッドワークの職場で起こりやすいプロキシミティ・バイアスについてご紹介しました。いかがでしたでしょうか?
アフターコロナの現在も、従業員満足度の向上、働き方改革、採用競争力の向上などを目的としてテレワークを継続している企業も多いと思います。特にハイブリッドワークでリモートチームを管理している方には、この記事を今後のチームマネジメントに活かしていただきたいと思います。
出典
American Time Use Survey - 2022 Results
https://www.bls.gov/news.release/pdf/atus.pdf
American Time Use Survey - 2021 Results
https://www.bls.gov/news.release/archives/atus_06232022.pdf