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ヨーロッパのテレワーク事情 ~在宅勤務の権利・つながらない権利の法制化~

※本記事は2022年11月に執筆し、株式会社イマクリエの会社ホームページに掲載していた記事をnoteに移管しています。


テレワークと言えば、アメリカが先進国として広く知られていますが、世界でもっともテレワークが進んでいるのは、実はヨーロッパ、特に北欧です。ヨーロッパでは、1990年代から失業率対策、ワークライフバランスの充実、働く女性の支援などを目的として、いわゆる働き方改革が進み、在宅勤務がいち早く浸透していきました。

今回の記事では、ヨーロッパではどのような背景でテレワークが浸透していったのかや、ヨーロッパにおけるテレワーク関連の法制化の動きについてお伝えします。

オランダで在宅勤務の権利が法制化

2022年7月に、オランダ議会の下院が、在宅勤務を法的権利として認める法案を可決したというニュースをご覧になった方がいらっしゃるかもしれません。
この法律のもとでは、リモートワークを希望する従業員がいる場合、企業は正当な理由がなければ、リモートワークを許可しなければいけなくなります。もし十分に考慮した結果、リモートワークを認めない場合には、企業は従業員に対して正当な理由を提示しなければならなくなります。

テレワークと言うと、新型コロナウイルスの流行をきっかけに、感染症対策の一環として導入が進んだというイメージがありますが、オランダではコロナ以前の2019年時点で、すでに労働者の14.1%がテレワークをしていました。
同時期の他国のテレワーク率を見てみると、EU諸国の平均は5.4%、イギリスは4.7%、アメリカは4.1%で、いかにオランダのテレワーク率が高かったのかが分かります。

オランダがテレワーク先進国であることを支える背景として良く語られることの1つに、ハイスピードインターネットの普及率があります。
オランダでは2017年時点ですでに、全世帯の98%がハイスピードインターネットにアクセスできる環境が整っており、これはEU28か国の平均87%に対し10ポイント以上の差をつけてトップでした。

また、オランダ国内には、公共の商用リモートワーク施設が豊富にありますし、公共図書館にもコワーキング スペースがあるなど、リモートワークを行う設備面の充実が、オランダがテレワーク先進国であることに大きく寄与していると言えるでしょう。

オランダ議会は二院制なので、在宅勤務の権利を法制化するために、現在、上院の最終承認を待っている段階ですが、近くこの法案は成立し、世界で最初に在宅勤務の権利を法制化した国の1つとなる見込みです。

フランスから始まった「つながらない権利 」テレワークで再注目

「つながらない権利(right to disconnect)」とは、従業員が勤務時間外や休日に、仕事上のメールやチャットなどのメッセージ、電話の対応を拒否できる権利のことを言います。

2017年にフランスで、この「つながらない権利」が労働法に盛り込まれ、世界初の法制化となった際には大きな話題となりました。
フランスの「つながらない権利」は、あくまで従業員が勤務時間外のメールや電話対応を拒否することを法的な権利として保障したものであり、企業が勤務時間外に従業員へメールしたり電話をかけること自体を禁止するものではありません。ただし、従業員は「つながらない権利」を侵害された場合には、訴訟を起こすことができるので、企業は従業員に対する教育やルールの徹底を図らなければなりません。

その後、イタリア、スペイン、ベルギーなどのEU諸国がフランスに続き、ヨーロッパでの「つながらない権利」の法制化が進みました。

新型コロナウイルスの流行でテレワークが一般的となり、仕事とプライベートの区別がつきにくくなったことで、これまでよりも労働時間が長くなる傾向が出ています。その結果、「つながらない権利」は世界中で再度注目を集めています。

テレワーク下で働く人たちは、上司に自分の仕事ぶりを評価してもらうためには、常に連絡がとれる状態にしておかなければならないというプレッシャーを感じやすく、長時間労働を引き起こしてしまうことがあると言われます。

日本では、「つながらない権利」法制化の動きは今のところありませんが、今後、ワークライフバランスの強化や働き方改革の流れの一環として、導入が検討される可能性があるかもしれません。実際、2021年3月に厚生労働省が改定した「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」においては、テレワークにおける長時間労働の原因の一つとして、時間外等に業務に関する指示や報告がメール等によって行われることが挙げられており、これを防ぐことが推奨されています。

フィンランドでテレワークが進んだ背景

最後に、ヨーロッパのテレワーク先進国の1つとして有名なフィンランドです。
フィンランドもコロナ以前からテレワークが進んでいた国の1つで、2019年時点でのテレワーク率はオランダと並んでEU諸国のトップ14.1%でした。また、2020年1月には、勤務時間の半分について、労働者がどこで働くかを自由に選べる権利を認める法律が施行されています。

では、フィンランドでなぜテレワークがここまで進んだのでしょうか?
フィンランドがテレワーク先進国になった背景がなかなか興味深いので、いくつかご紹介します。

1. 厳しい冬の寒さ、雪が多く通勤しにくい気候事情

ご存知の通り、高緯度に位置するフィンランドでは、暗く寒さの厳しい冬が長く続きます。冬のフィンランドは日照時間がとても短いため、通勤に時間をかけずに、明るい時間を有効に使いたいと考える人が多く、これが在宅勤務を後押ししていると言われています。

2. フィンランドに根差した信頼の文化

Eurobarometerの調査によると、フィンランドはヨーロッパ諸国の中で、自国の国民を最も信頼している国の1つです。フィンランド人の5人中4人が、他のフィンランド人のことを信頼していると言います。
このフィンランドに深く根付いた「お互いに信頼し合う文化」は、テレワークでよく言われるサボっているのではないかといった懸念を払拭するのに役立っています。逆を言えば、お互いが信頼し合っているため、人が見ていなくても仕事をさぼったりしないという姿勢が人々の間に常識としてあるとも言えます。

3. 大企業勤務、テレワークと親和性の高い職種

テレワークは大企業で取り入れられることが多い傾向がありますが、フィンランドの労働者は大企業で働くことが比較的多いのが特徴です。
また、フィンランドではテレワークと親和性が高い 職種である ICT(情報通信技術)を活用した分野で知識や技術を活かした仕事をする労働者の割合が多いことも、テレワークが広まりやすい環境の一因と言えるでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?
アメリカでは企業主導でテレワークが浸透していったのに対して、ヨーロッパでは法律がテレワークの促進を下支えしているのが分かったと思います。

最近では、多くのアメリカ企業がテレワークを終わらせて、社員に出社を求める、いわゆるオフィス回帰が続いているというニュースを見聞きします。

ヨーロッパでは今後テレワークがどのようになっていくのか、引き続き注目してみていきたいと思います。

https://www.imacrea.co.jp/corporate/tw_diagnosis/

出典